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学科 | 社会学科 |
年度 | 2023 |
ゼミ名 | 森 千香子 |
タイトル | 模索するパレスチナ・アイデンティティ ーガザ出身者の特権的移動と「We」の再編ー |
内容 | 本稿は、パレスチナ自治区のガザ地区から国際移住するケースの行為主体に目を向けた。ガザ地区では、イスラエルの封鎖政策、エジプトの国境管理によって人と物資の出入域が極端に制限され続けている。ガザ地区内の空港は破壊され、地中海に面していながら航行可能領域も制限されている現在、ガザ地区のパレスチナ人が他国へ向かう手段は、エレツ検問所とラファ検問所という2つの検問所を通過するほかない。そして通過が認められるケースは限定的かつ長期の待機時間を要したり、突然閉鎖されたりと厳しい。筆者はそのようなガザ地区から、留学や結婚などを通して国際移住を実現させ、現在日本やカナダに暮らすガザ出身者への調査を行った。研究背景として、パレスチナ自治区におけるパレスチナ人のインモビリティ状態や、パレスチナ・ディアスポラのアイデンティティ研究について述べた。また、国際移住の重要なファクターとなる教育や社会経済状態の記述を行った。その上でガザ地区からの特権的移動がどのような人々によってなぜ行われているのか、移住後彼らのアイデンティティやコミュニティはどのように維持、変容しているのかという点に着目し調査結果を分析、考察した。(500字) |
講評 | 本研究は、従来の研究が「難民」という視座から取り上げてきたパレスチナ・ガザ地区からの人の移動を異なる角度から検証した力作である。先行研究を丁寧に検証した後に、筆者はパレスチナから留学などを通して国外に移動する人たちの移動を「特権的移民」として捉え、当事者への聞き取り調査を行って、移動の軌跡と要因、また移動の経験がライフヒストリーやアイデンティティに及ぼす影響を検討した。その上で「特権的移動」をする「パレスチナ移民」たちに共通する要素、具体的には社会、経済、文化、言語資本が高いことや個人主義的論理を内面化していることなどがあぶり出された。だが同時にパレスチナをめぐる情勢の著しい悪化を通して、特権を持ち、個人主義的だった「パレスチナ移民」たちが、新たな集団性を模索するような動きが生まれていることも明らかにされた。筆者の学術的能力の高さと行動力、そして問題に対する真摯な姿勢によって、卒論として極めて高レベルな作品が完成した。本来予定されていた現地調査が10・7により不可能となるなど、苦しい時間を経験しながらも、それを乗り越えて、力作を完成させたことを高く評価したい。 |
キーワード1 | ガザ地区封鎖 |
キーワード2 | 国際移住 |
キーワード3 | アイデンティティ |
キーワード4 | パレスチナ問題 |
キーワード5 | |
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