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学科 産業関係学科
年度 2012
ゼミ名 寺井 基博
タイトル 労働契約法の制定過程と労使関係 -法律家・公益側/労働者・使用者側の労使関係の理解相違-
内容 2008年3月1日より施行されている労働契約法は、当初労働関係の成立から終了までの権利義務における法的ルールを明らかにしようとして厚生労働省に設置された労働契約法制研究会や労働団体により構想されたものであった。その労働契約法が厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会(以後、分科会と呼ぶ)における審議を経て、いざその姿を現すと①労働契約の基本原則と理念②就業規則の効力③出向命令権④懲戒権⑤解雇権濫用⑥適用除外などに関するわずか19条の条文のみからなら極めて少ない条文数の立法であった。このような立法になった原因は、法律家ないし公益側が考えている労使関係と労使双方が考えている労使関係とのくい違いである。そのくい違いが労働者側の研究会報告という労働契約法の下地への不信感や嫌悪感、使用者側の反発を彷彿させ、それが尾を引いて、研究会報告を議論の土台としなかったり、審議を一時中断したり、答申のプロセスまでに研究会報告のいくつかの視点が取り除かれたりといった事態を招き、またその感情が最後まで尾を引いた結果として労働契約法制がわずか19条という小規模な法の姿にとどまったのである。
講評 提出論文のタイトルは、「労働契約法の制定過程と労使関係」「職人の技能継承」「ベーシックインカムに対する期待の検討」「日本の人事制度の変遷」「フィリピンの住居政策とパシッグ・リバー・プロジェクトの現状」「奈良県と京都市における廃校利活用の実態と課題に関する研究」等々。一瞥してわかるとおりテーマは自由とした。関心のあるテーマならば全力で取り組むことができるのではないかと考えたためだ。学生への事前指導として、目新しいことを書こうとせずに、自分が選んだテーマについて考え抜いたことを書くように勧めた。
自分の考えを書くといっても、まずは先行研究を読んで、議論の枠組みや主要な論点を把握しなければならない。論文の作法として、他者と自己との見解を峻別しなければならない。すると、複数の学生から同じような質問が寄せられる。先行研究の中ですでに書かれてしまっているので、この上「自分の考え」として何を書けばよいのかという内容だ。答えは明瞭である。先行研究の記述をどのように理解し評価したかを書けばよい。これらの作業そこが分析であり、読み手の考えに他ならない。文献研究が単なるコピー&ペーストとならない所以である。
提出された論文は、実証的なもの、思索的なもの、地道な努力が光るもの、苦悶の跡が窺われるものなど多彩であったが、いずれもそこには「現在の自分」が現れている。確かに、考察が不十分なところや論理展開がやや強引なところなど、荒削りな面はある。しかし、筆者の思いが切々と綴られた部分は、自ずと読む者を惹きつける。それは自分自身との対話の深さによるものだろう。
卒業論文の自分を起点として、社会人として新たなスタートを切ってもらいたい。
キーワード1 労働契約法
キーワード2 研究会報告
キーワード3 議論の土台としない
キーワード4 審議の一時中断
キーワード5 労使関係
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