詳細
学科 メディア学科
年度 2020
ゼミ名 小黒 純
タイトル ホラー映画と感染症 ―脅威による恐怖、想像による恐怖と向き合うには―
内容  現在、世界でコロナウイルス感染症が問題となっているが、未知の病であるため、人々はどのように対処して良いのか分からずにいる。感染症への恐怖心とどう向き合い、対処していけば良いのか、6 つの映画を分析しながら考察した。これらの映画を分析した結果、人々が感じる恐怖は 2 つに大別されると分かった。1 つ目は「目の前に脅威が迫っている恐怖」で、2 つ目は「将来的に脅威が迫ってくると想像することによる恐怖」だ。2 つ目の恐怖は、感染症そのものによる脅威に加えて、新たな脅威を作り出す。新たな脅威には様々なものがあり、感染を公表することへの恐怖心や、他人を蹴落として自分だけ生き残ろうとする利己心などが例に挙げられる。感染者を責めることで、感染を公表することに恐怖を感じ、感染を隠してしまう人が現れる。すると、さらなる感染拡大に繋がる。つまり、我々はコロナウイルス感染症と共生するにあたって、感染者を責めず、高い情報リテラシーを持つ必要があるだろう。
講評  メディア学の範疇とはいえ、実に多種多様な、しかもユニークなテーマがそろった。いずれも自身の研究に愛着をもって取り組んだ成果が如実に現れている。
 例えば、『毀滅の刃』におけるジェンダー。空前のヒットとなる、はるか以前からこの作品に注目し、ジェンダーの視点から切り込もうとした意気込みは、<水の呼吸>も顔負けだろう。ヒーロー映画『スパイダーマン』を「笑い」という視点から切り取った研究もユニークだ。同じシリーズでも初期のものと15年後では、「笑い」を誘う頻度や種類が大幅に増えていることを実証的に突き止めた。
 インターネット全盛時代に、あえてラジオ番組を見つめた研究もある。お笑い芸人が自らの不祥事(不倫など)を謝罪する場となっている傾向に着目し、ラジオというオールド・メディアと謝罪の本質に迫った。
 異色とも言えるのは、ホラー映画作品で感染症がどう扱われ、メディアを介して人びとがどのように恐怖に晒されるかを解明しようとした研究だった。自分の“得意分野”に関連するテーマとしては、他にアーチェリーやラクロスの選手経験を存分に活かした研究がある。アーチェリーは新聞報道と、ラクロスはSNSと、それぞれ掛け合わせ、競技そのものとメディアの関係を描いた。北海道のローカル番組『水曜どうでしょう』の内容分析も、もともと番組や出演者のファンだという熱量が、研究にも反映された好例だと言える。
 他の研究同様、問題意識の高さが光ったのは、自閉症の特徴が、ドラマの中でどう描かれているのかを、韓国のオリジナル作品『グッドドクター』と日本のリメイク版で検証した研究を挙げられる。
 韓国と日本とを比較した研究は、CMやドラマのポスターも対象となった。家電製品など同じ商品CMでも、両国ではジェンダー描写が異なることが裏付けられた。また、ドラマのポスターは、色彩などの観点から比較分析すると、同じ作品なのに違いが鮮明になった。
 作品や人物ではなく、言葉の単位に注目した研究もある。「生ビール」や「生放送」などの「生(なま)」の語義が広辞苑では、なぜ、どのように変遷しているのかというものだ。
 ジャーナリズム直球型としては、新聞の事件報道における情報源明示を詳細に分析し、鋭く考察したものがある。ニュースサイト「Yahoo!ニュース」が既存のマスメディアの、どんなニュースを集めているのかに注目した研究も、今後のジャーナリズムの在り方を問う示唆に富む分析と考察だと言える。また、スポーツ報道における「物語」のパターンや特徴を見出す研究は、ニュースのフレームを具現化した形となった。
 研究方法では内容分析が多い中、KHコーダーによる分析が新興勢力。クラス全体で扱った手法ではなかったが、映像作品に対するSNS上の反応の分析や、長期にわたる五輪テーマソングの歌詞分析などで見事に活かされた。
 その一方、高校のeスポーツ部の実態をつかむためには、インタビュー調査が有効だった。Zoomやメールを駆使しての調査は、コロナ禍の制約を跳ね返す労作となった。昭和の時代を再現する「純喫茶」ブームとメディア利用の関係は、店主や利用客に対するフットワークのよいインタビューやアンケート調査によって、浮かび上がらせることができた。
 オンライン時代にアイドルのファンは、メディアをどう利用し、アイドルとの関係を構築するのかも、22人へのインタビュー調査が導き出した知見である。オンラインのコンサートはドーム会場公演よりも低めの料金設定となっているが、いくらだったら納得できるものなのだろうか?
 コロナ禍での指導について付言しておく。ゼミ全体で、また個別に、対面授業ではなくオンラインが中心になった。そこでできる限り環境を整備した。
 OneDrive 上に受講生ごとのフォルダーを置き、収集した先行研究やデータなどを格納できるようにした。執筆中の論文のファイルもここに載せていく。教員だけでなく、受講生同士も自由に閲覧出来る環境を作り上げた。ゼミ全体が共有すべき情報は、共有フォルダーに入れておくようにした。過去の卒論も、5年分を全量スキャンし、年度ごとのフォルダーに格納し、自由に閲覧できるようにした。
 以前は主に研究室で個別の論文指導を行っていた。その代わりに今年度は、Zoomで行うようになった。場所や時間の制約がなくなったので、学生と教員のやりとりは大幅に増加した。学生側からするとZoomになって、教員に相談する心理的ハードルがぐっと下がったのではないか。夏休みも、週末も。Zoomは卒論の質まで高めた。
 コロナ禍がやや収まっていた11月下旬は、丸2日間(計20時間超)、広々とした教室を貸し切っての卒論合宿を敢行した。Zoomだけではなく、個々の学生の強い意志が集まったことで、次々に力作が生まれていったと言える。
 場当たり的な政府の対応で今年度中にコロナ禍は終息しなかった。精神的なストレスが知らぬ間に蓄積していく中、全員が志を失わず、真摯に取り組んだ。つぎ込んだ膨大な時間が、質の高さを裏付けている。中には大学院レベルに達する研究もあった。稚拙な指導にかかわらず、これだけの結果が生まれた。偶然ではなく、必然である。
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