詳細
学科 産業関係学科
年度 2020
ゼミ名 寺井 基博
タイトル 子どもの貧困における発生と連鎖のメカニズム-就労と教育の観点による分析-
内容  本稿は、子どもが相対的貧困状態に陥ることへの問題意識から、その実態を明らかにすることを目的としている。そのために、発生する原因と連鎖されるメカニズムを、「就労」と「教育」という観点から分析した。まず、子どもの貧困はひとり親世帯で発生しやすく、特に母子世帯において深刻度が高い。そして、その原因は母親の就労にあると考えられた。日本企業には、正規労働者と非正規労働者との雇用形態間賃金格差、男性と女性との性別間賃金格差が存在する。そして、母子世帯における世帯主は女性であり、かつ非正規労働者が多いことから、世帯を養うために十分な所得を得ることが困難であると考えられたのである。また、日本の教育は家庭からの支出の比重が高いことから、所得格差が進学格差を引き起こしやすいと判断できた。さらに、高卒と大卒では正規労働者比率に顕著な違いがあったことから、就学年数という観点の進学格差が将来の所得格差を引き起こす可能性があるといえる。つまり、教育を媒介して、子どもの貧困が世代を超えて再生産される可能性がある。その不条理性ゆえに、就労や教育の複雑な要因が絡む課題ではあるが、改善の必要性が求められている。
講評  卒業論文の作成は、先行文献を集めて読み込み、時にはインタビュー等の調査を行い、それらの知見をもとに自らの考えを文章にまとめるという地味で忍耐を要する作業なので、 各人が関心をもって取り組むことができるようにテーマは自由とした。ただし、各自が選んだテーマと産業関係学との関係を論文の中で明らかにすることを条件としている。
 今回提出された卒業論文のテーマは、組織や日本的雇用慣行など「労使関係」に関するもの、長時間労働、テレワーク、女性活躍など「働き方改革」に関するもの、プロスポーツ選手や各種講師などの「労働者性」に関するもの、貧困や雇用機会創出など「社会問題」に関するものに分かれている。文献研究が主であるが、聞き取り調査に基づいて考察を行ったものも複数みられた。
 いずれの論文も先行文献を丹念に読み込んで、主要な議論を整理したうえで各自の見解が述べられていた。文章表現も的確であり、全般的に論文としての完成度は高い。提出者全員が卒業論文作成に懸命に取り組んだ努力は大いに賞賛に値する。この卒業論文は紛れもなく各人の「大学生活の到達点」であり、これを起点として社会人としての一歩を踏み出し、 さらなる研鑽を積んでもらいたい。
 総合評価についてはいずれも甲乙つけ難いものであったが、最優秀論文は、「子どもの貧困における発生と連鎖のメカニズム-就労と教育による分析」とした。
 評価を分けたポイントは分析力と構成力であった。一般に、論文作成に費やした時間に比例して論点把握や考察が深まる傾向がみられるが、本論文では、それに加えて、これまでに培われた分析力と構成力、文章表現力が多いに発揮されている。ことばの定義、文献考察の深さ、統計データによる論証、論理の展開、そして明快な文章表現は秀逸で、総合力として他を抜きん出ていた。
キーワード1 子どもの貧困
キーワード2 貧困の連鎖
キーワード3 賃金格差
キーワード4 教育格差
キーワード5 学歴社会
戻 る
Copyright (C) Doshisha University All Rights Reserved.