詳細
学科 産業関係学科
年度 2020
ゼミ名 冨田 安信
タイトル 日本の派遣労働-スウェーデンの派遣労働との差-
内容 本稿は、派遣労働者のリアルをスウェーデンの派遣労働事業との比較を用いて探ることを目的としたものである。まずそのために、日本における派遣労働とはいったい何であるのか、現在の派遣労働の定義や歴史、そして労働派遣法の整理を行う。また、2020年に施行されたばかりの、働き方改革の一環である同一労働同一賃金の整理、そして先行論文だけでは知りえない部分を、アンケート結果で補完する。その結果、給与の低さが不満であることがわかった。次に、派遣労働の満足度が高いスウェーデンの派遣労働について整理する。満足度の違いを理解するために、労働協約や賃金決定ルールに焦点を当てた。最後に、先行研究では知りえなかった生の声で補完するために、派遣業界に携わる方にインタビューを実施した。その結果、派遣労働者の雇用の不安定さや、派遣労働者の質を垣間見ることができた。それらを踏まえて、二点私の見解を述べる。一つ、企業ごとに派遣労働者の人数制限を割合を設定することで、正社員の雇用侵害を防ぐ。二つ、賃金以外の待遇改善を優先し、派遣労働者の経歴を明確に開示させる義務を設けることで、派遣労働者の質を上げることである。以上二点を考え、本稿の結論とした。
講評  今年度は16人が卒業論文を提出したが、働き方改革をテーマに取り上げた学生が多かった。「働き方改革法施行からみる企業の労働時間管理の是非」では、大手製造業の労働組合に聞き取り調査した結果、働き方改革法は従業員の労働密度を高めたり、自由な働き方を制限したりすることになるのではという懸念が示された。「男性の育児休業取得率向上を目指して」では、男性の育児休業取得率が高いスウェーデンとノルウェーも、かつては男女の役割分担がはっきりしていたが、人手不足への対応として、女性の職場進出、男性の育児休業取得が進んだことがわかった。ややユニークな視点から労働時間に取り組んだのが「仮眠による疲労回復効果」である。海外ではIT企業を中心に、勤務時間中に仮眠を取る制度が広まりつつあり、少し仮眠を取ることで疲労が回復し、仕事の効率が高まることは、私もよくわかる。コロナウイルス対策で普及したテレワークも働き方改革の1つである。「新しい日本の働き方」では、テレワークのメリット・デメリットを分析したうえで、出社とテレワークを組み合わせたハイブリッド型の働き方を提案している。
働き方改革と関連するが、多様な働き方をテーマに取り上げた学生もいた。「副業・兼業が社会に与える影響と地方創生との関連について」では、学生が副業をしている人に聞き取り調査して、これからは自分の意志でキャリアを選択していかねばならないと強く感じたようで、これも収穫であった。「日本の派遣労働-スウェーデンの派遣労働との差-」では、派遣労働にかかわる2人に聞き取り調査してその実態を把握し、派遣労働の「コスパ」から「スキル確保」への転換を提案している。
 ベーシックインカムをテーマに取り上げた学生がいた。「ベーシックインカムの実現可能性とその影響」と「ベーシックインカムの必要性と実現可能性」である。ベーシックインカムをめぐる論点の1つが、ベーシックインカムが導入されると人々は働かなくなるのではということである。2人の学生は共同で、ベーシックインカムが労働供給量に与える影響を明らかにするためアンケート調査を実施し、労働供給量はあまり減らないことがわかった。産業関係学科で、アンケート調査で人々の行動がどのように変化するかを分析した卒論は初めてではないかと思う。チャレンジングな卒論だった。
今年も大学生の就職活動を卒論のテーマに取り上げた学生がいた。「日本の就職活動と海外の就職活動」では、タイの大学生の就職活動について聞き取り調査をした結果、欧米の大学生の就職活動と同じであることがわかった。「文系学部の存在価値と意義」では、さほど勉強せずに卒業する文系の価値を自らの問題として考え、曖昧だが、幅広いことに関心をもつことが文系の長所ではないという結論を得た。
 2人の学生が、高齢化が進む中、喫緊の課題である介護職の人手不足の原因と解決策を考えた。「介護人材不足の原因探究」では、正規職員であれば介護職の賃金が低いわけではなく、さまざまな小さな不満が積み重なって離職する人が多いことがわかった、また、「介護人材の人手不足について」で調査した訪問看護の事業所では、利用者とのトラブルを少なくするために、利用者と看護職員がパーソナルな関係にならないようにしていた。
4月から働くことになる業界に関連したテーマを選んだ学生もいる。「不動産業界の働き方の実態」では、不動産業界でも個人にノルマを課さずにチームで仕事をするなどして、働き方を変えることができることを聞き取り調査で明らかにした。「IT技術と自動車産業の新たなビジネス」では、脱炭素化をめざす社会のなかで、自動車産業が自動運転などIT技術と結びつくことによって、新しいビジネスモデルを創造しようとしていることがわかった。「新たな働き方について」を書いた学生は、オフィス環境を提案する会社で働くことになるが、急速に普及したテレワークのメリット・デメリットを考える中で、オフィスで人々が一緒に働くことの意味を捉え直すことができた。
 また、過酷な労働環境で働くアニメ制作者を取り上げたのが「アニメ制作者の労働環境に関して」である。アニメ制作者の技術と職業規範について職人的なものとクリエーター的なものという2つの視点から、アニメ制作者の働き方を分析しようとした。
今年度のゼミ優秀卒業論文には「ベーシックインカムの必要性と実現可能性」を選んだ。ベーシックインカムをテーマに卒業論文を書いた学生は2人いて、2人が共同でアンケート調査を実施しており、参考文献も共通したものが多く、できれば2本とも優秀卒業論文に選びたかった。こちらの論文は、AIが雇用に与える影響とベーシックインカムの関連についても議論しており、その点を評価して、ゼミ優秀卒業論文に選んだ。
キーワード1 日本の派遣労働
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