詳細
学科 産業関係学科
年度 2021
ゼミ名 寺井 基博
タイトル 日本の学校現場で職業教育が根付かない要因 ~学校から社会への円滑な移行のために~
内容 本稿は、日本において、職業教育の発展が学校から社会への円滑な移行の一助になり得るかを検討することを目的としている。そのために、2章から4章では、日本の職業教育の成り立ちや諸外国の事例を挙げ、それらを踏まえて日本で職業教育が根付かない要因を明らかにした。
学校で勉強をする時間以上に、社会人として自身のキャリアを歩む時間は長い。しかし、自身の希望や特性と職務内容との間にギャップを感じ、早期に離職する若年者が多く存在する問題は今もなお顕在している。そのような現状を少しでも改善するためには、職業教育を今以上に浸透させる必要があると考えた。
諸外国の職業教育の実施状況を確認すると、学校と企業が連携して職業教育を実施していることが判明した。しかし、日本では、諸外国と同様ではなく、学校と企業が連携して職業教育を実施しているところが非常に少ない。その要因として、日本では教育界(学校)と産業界(企業)の双方に、教育と労働を乖離させる要因が根強く存在していることが明らかになった。
講評 卒業論文の作成は、複数の先行文献を集めて読み込み、時にはインタビュー調査等も行って、そこからの知見をもとに自らの考えを文章にまとめるという地味で忍耐を要する作業なので、各人が関心をもって取り組むことができるようにするためにテーマは自由とした。とはいえ、産業関係学科での学びの集大成として論文を作成するので、「テーマと産業関係学との関係性が説明できること」という条件をつけた。
提出された卒業論文は、①「転勤に関する雇用管理の変化と今後」、②「日本における障がい者雇用促進に向けた倫理改革-スピリチュアル経営を用いて」、③「中小企業における労働の特徴と社長と従業員の関係性」、④「企業におけるテレワークの課題と実現可能性」、⑤「新卒一括採用批判の考察」、⑥「日本の学校現場で職業教育が根付かない要因-学校から社会への円滑な移行のために」、⑦「ウォルト・ディズニーのホスピタリティ-従業員教育制度の観点から」、⑧「理論と経験-『やる気』に必要なものとは」、⑨「キャリア権と非正規雇用の働き方について考える-キャリア権を意識した職業選択・能力開発は雇用安定に結びつくか」の9本であった。
①、②は法規制と企業運営のあり方に関するもの、③~⑤は企業の実態や課題に関するもの、⑥~⑨は職業教育や職業訓練に関するものに大きく分けられる。③と⑦はインタビュー調査に基づく実証研究、それ以外のものは文献研究である。①は、厳格な解雇規制を基本として企業に広範な配転権限が認められているが、労働市場の変化に合わせて配転権限を制約すべきという見解を複数の文献に基づいて検証している。②は、企業が障がい者を雇用する倫理的な目的に着目して、障がい者雇用の促進をいかにして図られるべきかを考えている。③は、自身の父親にインタビュー調査を行って、中小企業の経営の実態と苦労を詳細に記述した。④は、テレワーク実現の課題について、産業関係学の知見に基づき、インフラ整備だけではなく仕事の配分や実施方法に関するルールの見直しが必要となることを論じている。⑤は、新卒一括採用およびその前提となるメンバーシップ型雇用への批判について、丁寧な文献レビューにもとづいて考察している。⑥は日本では職業教育は実質的に企業にゆだねられて国や産業横断的な制度が整備されてこなかった点について、文献をもとに歴史的、産業関係学的な視点から検証している。⑦は、インタビュー調査によって複数のテーマパークの教育訓練制度を整理し、ホスピタリティの点から教育訓練制度に違いを生じさせるマネジメントの違いを明らかにしている。⑧は、労働者の「やる気」を心理学等の理論と企業事例とを対比させて、実践的なモティベーション管理の方法を探っている。⑨は、企業間移動を含めた継続的な就業保障の基礎となる「キャリア権」という法概念について、育成人事や査定に基づく業績管理を基本とする日本企業の実務の観点から評価している。
論文作成に費やした時間に比例して、論点把握や考察が深まる傾向にある。文献レビューやインタビュー内容の考察などの地味な作業の積み重ねが、論文の内容に大きく影響している。先行文献のレビュー、問題把握、文章構成などに精粗はあるものの、ゼミ生全員が卒業論文執筆に真面目に取り組んできたことは大いに評価に値する。この卒業論文は紛れもなく「大学における勉学の到達点」であり、各人はここから社会人としての一歩を踏み出しさらに研鑽を積んでもらいたい。
キーワード1 職業教育
キーワード2 キャリア教育
キーワード3 キャリア
キーワード4 学校から社会への移行
キーワード5 職業訓練
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