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学科 産業関係学科
年度 2021
ゼミ名 冨田 安信
タイトル AIによる雇用喪失と社会システムの変化
内容 本論文では、AIは今後の社会にどのような影響を与えるのかについて予測し、そしてどのような社会の備えが必要なのかを考察した。現在、AIには社会問題である人手不足の解消への貢献が期待される。文献やデータ、歴史的背景に基づき、AIの生産性・合理性・有用性の点で社会はAIの活用を進める傾向にあることが予測される。AIはディープラーニング、ビッグデータ、計算能力などのAIが持つポテンシャルに加えて、開発・研究投資、法整備など社会のAI導入に向けた協力によりこれまでにない成長速度で発展する。その際に人手不足解消としての役割を超え、人の雇用を奪う事態に陥る。そしてその領域は広大で、多くの職業がAIに代用される。しかも、職を得るために必要な訓練と、その職業が機械化できるのかという難易度の間に相関関係はまったく存在せず、知的労働者に対するオフショアリングのインセンティブが高いため、高給や就業難易度がそのまま職業の安定につながるわけではない。そしてAIは過去のオートメーション化で肉体労働からの開放を実現したが、今回のAI活用はこれまで人特有のスキルであった知的分野においてもAI活用が進むため、新しい雇用を生み出せない可能性がある。全員に雇用が提供できない世の中では労働者が潜在的消費者となる現在のような大量消費社会はうまく機能し循環しない。機能しなければ豊かさが衰退の一途をたどる社会になる。このような課題に対して所得を補償する制度の導入や働くことへの意識改革が必要であると考える。
講評 今年度は 11 人が卒業論文を提出したが、女性労働に関連するテーマに取り上げた学生が 4 人と多かった。「出産・育児を経た女性が生き生きと働ける社会を実現するには」では、女性も出産後、仕事と育児 を両立させながら働き続けることができるようになったが、長時間労働を前提とした働き方を是正しな ければ、管理職昇進など女性が活躍することは難しいことがわかった。「雇用格差の解消に向けて-同一 労働同一賃金の必要性-」では、正規雇用者と非正規雇用者の格差を解消するためには、労働組合が正規 雇用者だけでなく非正規雇用者も組織化して、同一労働同一賃金の実現に取り組むことを提案している。 「女性のワークライフバランスの現状と今後」では、女性の働き方のM字型カーブが解消したスウェーデ ンとアメリカを比較し、男女平等よりも企業の経営戦略としてワークライフバランスが進んだアメリカ が日本の参考になると結論づけた。「共働きの目指すべき姿とは」では、男女共同参画社会における共働き世帯は、男性の家事・育児への参加が不可欠であり、男性の育児休業取得がそのきっかけになるのでは と考えた。 企業の人事制度をテーマに取り上げた学生が 2 人いた。「「新日本型雇用慣行」を考える-メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へー」では、これまでのメンバーシップ型にジョブ型の要素を取り入れるための新しい雇用管理として、新卒・中途一括採用、ジョブ型生産性序列、そして、職業別労働組合の3つ を提案している。「高齢者の雇用について-定年制度の今と未来-」では、人事制度の1つである定年制 度を取り上げており、人手不足の時代を迎えて、人手不足を解消し、高齢者のスキルを最大限活かすため にも定年廃止が望ましいと結論づけた。 2 人の学生が AI が雇用や職業に与える影響をテーマに取り上げた。「AI による雇用喪失と社会システ ムの変化」では、AI がこれまで知的労働者が担っていた仕事の多くを代替するようになり、多数の無業 者が発生するという予測を紹介し、彼らは勤労所得によって生活することができなくなるので、ベーシッ クインカムによって人々の生活を支えざるをえなくなると考えた。また、「職業におけるAI 化とアナウ ンサーの将来」では、AI アナウンサーは、「読む」という点では人間より優れた能力を発揮するが、アナ ウンサーには、「読む」だけでなく、「話す」「聴く」そして「自分の意見を述べる」という能力も求められるので、AI にアナウンサーの仕事をすべて任せることができないという結論に達した。 職種・職業をテーマにとりあげた学生も 2 人いた。「これからの戦略的広報活動」では、テレワークが 普及したために社内コミュニケーションが不足するようになったが、それを補うような広報活動として、 社内報だけでなく、社内ラジオという新しい取り組みに注目した。レーシングドライバーという異色のテーマに取り組んだのが「日本人レーシングドライバーのキャリア形成と実態」である。産業調査実習でレーシングドライバーになるまでのことを調査したが、卒業論文でさらに研究を進め、レーシングドライバーになってからも、スポンサーである自動車メーカーの意向に左右され、海外挑戦などドライバー自身が 望むキャリアを歩むことが難しいことがわかった。 最後に、東京一極集中という労働市場全体のテーマを取り上げたのが「東京一極集中から読み解く日本 の未来」である。東京一極集中を是正するためには、人々が地方で暮らしたいと思う労働条件・生活環境 を整備するとともに、災害等で東京が機能しなくなったときに備える副首都構想にも注目した。 今年度のゼミ優秀卒業論文には「「新日本型雇用慣行」を考える-メンバーシップ型雇用からジョブ型 雇用へー」を選んだ。産業関係学科で 4 年間学んできたことを振り返るというかたちで、メンバーシッ プ型雇用のこれまでの日本型雇用慣行のメリット・デメリットを整理し、デメリットを解消するために、 ジョブ型雇用の要素を取り入れることを提案している。具体的には、新卒・中途一括採用、ジョブ型生産 性序列、そして、職業別労働組合の3つを提案しているが、これらはアイデアの段階に留まり、まだまだ 議論していかねばならない。それでも、卒業論文を書くことを通じて、産業関係学科で学んだことを振り 返ることができた点を評価したい。
キーワード1 AI
キーワード2 ディープラーニング
キーワード3 オートメーション化
キーワード4 オフショアリング
キーワード5  
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