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学科 産業関係学科
年度 2022
ゼミ名 上田 眞士
タイトル 企業別組合への非正規労働者の組織化 ―組織化の理由と非正規労働をめぐる組合の役割は何かー
内容 UAゼンセン加盟組合を中心に、非正規労働者が企業別組合に組織化される事例が見られている。しかしこの事実は、非正規労働者が企業外部に位置付けられるという学問的理解に即せば、やや異質にも見える。そこで本稿では、企業別組合が非正規労働者を組織化する理由について考察した。結論として、職場の生産性問題や過半数代表制の危機を背景に、組織化が実施されている可能性を指摘している。
また、非正規労働者を組織化する企業別組合の意義、役割について考察するにあたり、スーパーマーケットへの聞き取り調査を基に基幹非正規の労働の特徴を紹介している。簡潔に述べれば、基幹非正規の労働は「労働の個別化と処遇の“若干の”個別化」であり、正社員と非正規労働者の査定制度の運用について違いが確認された。
そこで、「処遇の個別化が若干である状況で基幹非正規の納得は調達できるのか」という立論のもと、非正規労働者を組織化する組合の意義・役割を考察している。結論として、非正規の基幹労働力化を背景に、組合は生産主義的役割を意識せざるを得なく、非正規労働者の報酬制度の合理的運用に向けた取り組みが組合の意義、役割として付与されることが考えられる。そしてそれは、個別的賃金管理の導入であり、非正規間競争を前提とした報酬制度の整備を行うことであった。だがそれは、根本にある「競争の規制」という組合思想に反することが考えられるため、脱生産主義的な活動である春闘が重要な意味を持つのである。
講評  皆さんから提出された卒論のテーマを分野別に大きく括ってみると,「幸福度とWLB,働き方改革」「非正規雇用の労働問題と企業別組合」「AI社会における営業職の働き方」「美容師の働き方と労働環境」「東京一極集中と地方における雇用創出」等々となっています。たしかに個々の論文を取り上げてみると,その内容に精粗や優劣もあったように思います。けれども,コロナ禍の下での就職活動という困難の中でも,卒論作成という課題に対して,基本的にはゼミ生皆が真面目に取り組んでくれた。そのように考えています。そこで,以下では皆さんが苦労をしてくれた研究論文の執筆というものをめぐって,わたしが大事だと考える要点を簡単に指摘して,それを卒論作業の締め括りの講評としたいと思います。
 まず労働問題に限らず様々な社会的課題に,積極的な関心を持つということが,第一に大事な点だと思います。成長を第一義にしてきた経済社会は,格差社会の問題一つをとってみても,少なくとも先進国を見る限り,今日,大きな曲がり角に差しかかっているように思います。論ずべきこと,解明すべきことは,多発的でありしかも多層的であるといって良いでしょう。そのような社会的課題と切り結び,現実に対して緊張感を持って立ち向かう姿勢が,やはり社会科学の領域の研究には必要です。
 また少々矛盾するようですが,論文の出来映えを決めるものは,政策提言の良否にではなく,問題把握や理解の深さにこそあるのだということ,この点も第二に大事なポイントであるように思います。言い換えれば,「わかりたい」という気持ちこそが大事なのだ。この点を強調しておきたいということです。昔からの有名な金言に「幽霊の正体見たり,枯れ尾花」という言葉があります。敢えて勝手な例え方をすれば,研究を通して「正体」を突き止めれば,人を脅かす怪異な「幽霊」も消えて行くのだと思います。社会科学的な認識の深まりが,そうした意味で人間社会の「自由」を拡大する。今も心に残る,若い頃に私が先生から教わった考え方です。役立つこと,実用的であることも確かに大事です。けれども私は「わかりたい」という気持ちを一番大切にして欲しい。そのように考えています。


キーワード1 非正規労働
キーワード2 基幹労働力化
キーワード3 労働組合
キーワード4 人事制度
キーワード5 生産主義
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