創造教育 活動報告

板垣ゼミ(社会学科)「メイキング・オブ・卒論」

過疎高齢化の進展と農業の法人化:農事組合法人北の郷ファームを事例に

まず、大屋さんの卒論のテーマを簡単に教えてください。

日本の農業は衰退していると言われています。たとえば僕の地元では、個人経営の農家はすでに長期の赤字状態にあるにもかかわらず、高齢者が頑張って農業を続けているという状況です。後継者の問題も深刻ですが、彼らが農業をやめないのにはいくつか理由があります。農家の方々にとって、農業を続けることはもはやお金のためではなく、「景観を守りたいから」とか、「田んぼを荒らしたくない」といった理由なのです。

そのような状況にある日本の農業ですが、では実際に個々の農家で何が起きているのかを、フィールドワークを中心にまとめたのが僕の卒論です。具体的に言うと、今政府は農業の法人化を推進しているのですが、それが僕の地元である島根県○町ではどのように進行したのかを、関係者へのインタビューや資料の読み込みを通して調べたのです。

○町では、家単位の経営では赤字になってしまう農家がほとんどでした。しかし集落単位での法人化を進めた結果、今では年間2000万円の売り上げを達成するまでになりました。その経緯を詳しくみてみると、農業の法人化とは、農村コミュニティー内における高齢化や過疎化といった問題と、国の推進する農業の法人化政策が結びついた過程で行われてきたものであるということが分かりました。

なぜ、こうしたテーマを選んだのですか?

まず、法人化は僕の地元でリアルタイムで起こっていた出来事だったので、具体的な関心がありました。実際、それまでは自分の家で収穫した米を下宿に送ってもらっていたのですが、法人化が行われた後は、いったん集落単位で米を集めてから分配するので、自宅で収穫した米をそのまま送ってもらうことがなくなりました。そういった身近な経験から、農業の法人化というテーマについて深く調べてみようと思ったのです。

自分の故郷で起こっていることが国の政策とどのように関わっているのかを深く調べることには意味があると思いましたし、対象地が地元なので、インタビューなども比較的しやすいのではないかという思いもありました。

では、具体的な執筆過程を教えて下さい。

4 回生の前期には、まず農業の法人化とはそもそも何なのか、ということに関する基礎知識をひたすら頭に入れました。HPで調べてみたり、役場に聞いたり、文献に当たったりして、法人化について一通り調べたあと、本格的な調査に入ったのは夏休みからです。○町に帰省して、町役場の役員さんにインタビューをお願いしたり、実際に農作業に参加しながらお話を伺ったりしました。

具体的には、 8月に一度帰省したときには農薬の散布のお手伝いをさせていただき、9月にも一度帰省して、稲刈りのお手伝いをしました。そうする中で、いろいろな資料を見せていただいたり、法人化にいたる経緯を詳しく聞くことができたりと、興味深いデータが沢山集まりました。

秋学期以降は、夏休みに行った調査結果のまとめを行いました。考察を進める中で、分からないことが出てくるたびに帰省し、その都度お話を伺い直すというスケジュールでした。そして、最後の 1ヶ月で一気に執筆を進めました。

ご自身の地元とはいえ、フィールドワークには苦労も多かったのではないですか。

いえ、自分の地元ということもあって、知り合いが多い土地での調査だったので、思ったほど苦労はありませんでした。僕の調査した集落は 60 戸の農家の集落が集まって法人化したのですが、その中で僕の父が役員をしていることもあり、話は割と聴きやすかったと思います。インタビューは全部で 9 人の農家の方々にさせていただいたのですが、直接お家にお邪魔してじっくり話を聴くことができました。また、農家の集まる総会にも参加したり、先ほども述べましたが、実際の農作業をお手伝いしたりもしました。とにかく、色々な場面でインフォーマントの方々と関わることを意識しました。

それより大変だったのは、調査を進める過程で入手した資料を解釈する作業でした。まず法人化に対する基礎知識がないと読めないものばかりですし、簿記の知識も必要でした。全体を通しててみても、内部資料の解釈が一番大変だったと思います。

そのような農家の方々との関わりの中で、みえてきたことは何ですか。

僕の論文は、ある現象の因果関係を理論的に論じるというよりは、その地域で起きていることの記述に重きを置いています。その結果分かったことは、農家の法人化とは、地域の内部要因と外部要因が関連し合って達成されたものだということです。詳しく言うと、内部要因とは、農村コミュニティーの過疎化や高齢化など、農家濃経営を難しくしている諸要因です。それに対して外部の要因とは、国や県が積極的に推進している農業の法人化政策です。内部と外部におけるこの 2 つの要因が結びついたところで、集落ごとの法人化がなされているのです。

これは調査していく中で分かったのですが、実は、初期の頃は、法人化に対して集落内からは反対意見が半数はあったのです。自分の家で収穫した米を自分で食べられなくなっては困る、というのが反対意見の主な理由です。しかし、だからといって自分の集落の農業が 10年後、どうなっているかは分かりません。また、集落ごとの法人化は、最初の参加戸数と面積によって補助金の額が決まります。だから、最初に多くの家がまとまらないと補助金が多くもらえないということもあり、最終的には 60戸全ての農家がまとまって法人化することになったのです。そういった細かなプロセスも、今回の論文では明らかにできたと思います。

卒論の執筆作業を終えてみて、下級生に対するアドバイスなどがあれば教えて下さい。

僕は、フィールドを自分がすでに知っている地域に設定したのがよかったと思っています。最初からラポールがある程度形成されているといってもよいですし、その意味では効率の良い調査ができました。しかし、調査するテーマにかんする基礎知識は、早めに頭に入れておくことは重要だと感じました。基礎知識がないとインタビューもできないからです。だから、そういった知識はできるだけ初期の段階で調べておくことが大切だと思います。少なくとも夏休み前までには、自分の取り組むテーマについて詳しくなっておくといいかもしれません。そうすることで、夏の現地調査がよりしやすくなりますし、分厚い記述ができると思います。下級生のみなさんも、良い論文が書けるように頑張って下さい。

    

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