同志社大学社会学部メディア学科・浅野健一ゼミは、教育GPの一環として2010年1月15日、16日に東京討論会を行った。初日は早稲田大学法学部の水島朝穂ゼミ、二日目は朝鮮大学校政治経済学部の宋修日(ソン・スイル)助教のゼミである。両校との討論会についてその概要を報告する。
1.早稲田大学法学部・水島朝穂ゼミ
1月15日午後1時から3時まで、東京都新宿区西早稲田の早稲田大学早稲田キャンパス10号館301教室で、早稲田大学法学部・水島朝穂教授(憲法、平和学)のゼミと討論会を行った。 浅野ゼミからは20名、水島ゼミからは水島教授と7名のゼミ学生(3・4年生)が参加した。
まず浅野ゼミ2回生が行っている共同研究「紙媒体としての新聞の未来」について研究成果を発表した。そして水島教授のゼミが「学生自治」と「現場主義」を基調とするゼミ活動を報告した。
2回生浅野ゼミの共同研究に対して水島教授及びゼミ生は、インターネットや携帯電話の利便性を認めつつも、「紙媒体としての新聞は今後も絶対に必要である」という2回生の見解に同意を示した。そして重要な点は双方の利点を自覚することにあるとした。また紙媒体としての新聞が生き残るための方策について質問や提案が示された。
水島教授からは、「過去においてどうだったかよりも、今の時点でも活字媒体が社会にとって不可欠だということを強調して論じてほしい」「全国紙のみでなく、地方紙の実態と課題にも目を向けてみてはどうか」との貴重な助言を受けた。
これから共同研究の結論部分について議論していく上で、水島教授そしてゼミ学生からの指摘は非常に参考となるものであった。また「現場主義」を信条とし、ゼミを学生主体で運営し、一人一人が高い問題意識を持って、積極的に全国各地へ出かけ取材を重ねる水島ゼミ生の姿勢から受けた刺激も非常に大きいものであった。
高い志と問題意識を持った他大学の学生との討論会を今後も継続していきたい。
朝鮮大学校国際政治学部・宋修日ゼミ
16日正午過ぎに東京都小平市の朝鮮大学校に到着した浅野健一ゼミ一同は、宋修日ゼミ学生2人の案内で、朝鮮大学校の構内を見学した。全寮制である朝鮮大学は活気が溢れ、アットホームな雰囲気であった。案内の学生が朝大の沿革の説明の中で触れた、「当時の学生が建築した」という講堂などの建物を見て歴史を感じた。
午後1時からは、研究棟2階の教室で浅野ゼミ3回生の共同研究発表会を行った。朝鮮大学の学生約20人が参加したほか、朝大学生と交流を続けている東京国際大学、慶應義塾大学、早稲田大学、多摩美術大学ら大学生で組織する「日朝学生ネット」のメンバー数人も参加した。
はじめに、3回生ゼミの代表が共同研究「北東アジアについての日本のマスメディアの報道~日本メディアによる朝鮮報道と権力の関係を中心に~」について報告した。研究目的や分析方法など研究概要の説明の後、本研究の核となる「ジャーナリズムの原理・原則」、そしてこれまでに終えた09年4月以降の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)のロケット発射などに関する全国紙の社説の比較研究の結果を発表した。
その後、質疑応答に移ると、研究内容に関する質問が複数出た。「日本の新聞5大紙のみを対象にしていては朝鮮の視点が欠けるので、朝鮮のメディアや在日朝鮮人の新聞である朝鮮新報の紙面も調べるべきではないか。何が事実か、真実はどこにあるかを知るためにそれは不可欠ではないか」「ジャーナリズムの原理・原則にあげられている『客観報道』はもともと実現が無理なのではないか」など、自らが打ち出した研究の進め方を再考させる貴重な質問が多くあった。客観報道に関する質問に対して、ゼミ委員が「問題提起、編集などの過程は記者個人の主観による判断に委ねられるが、客観報道とは、記者にとって最低限必要な姿勢である」と回答した。
宋先生は「今の日本の新聞やメディアは、読むのも見るのも嫌になるぐらいひどい」と感想を述べた上で、「今の学生は『北朝鮮報道』の転換期はいつだと考えるか、また浅野ゼミの学生が考える理想の報道とはどういったものか」と質問した。ゼミ生は「過去に朝鮮を賛美するような報道をしていたこともあり、2002年9月の拉致事件報道から質が変わってきたと考える」などと答えた。ゼミ生一人一人が、改めてジャーナリズムのあるべき姿を探り、報道をどう改革すべきかを考える契機となった。
どの質問も今後の研究に役立つ視点や課題を与えてくれ、非常に有意義な発表・討論会となった。報道の現実から離れずに研究を行うためには、実際に話を聞く機会を持つことが大変重要なのだと感じた。
2時半ごろからは会場を研究棟1階の教室に移し、グループ・ディスカッションをおこなった。3つのグループに分かれておこなわれ、共同研究に関連した意見交換から、互いの学校生活などの話までと幅広い話題で内容の濃い討論となった。朝大生からは「今まで見るに耐えなかった新聞にも、こういった見方があるとは知らなかった」という発言もあった。メディア学科としての研究が、朝鮮大学の学生に対しても新たな視点を提供することができたことを知り、研究の動機付けが強化できたと思う。
最後は日朝学生交流の一環として朝鮮伝統のお正月の民俗遊びの一つ「チェギチャギ」を楽しんだ。日本の蹴鞠(けまり)に似た、小銭を布に巻いてチェギ(羽根)を作り、チェギを地面に落とさないで蹴り続ける。
交流会の後、互いの連絡先を聞きあう姿も多く見かけられ、今回の交流が、一時的な出来事に終始せず、継続したものになっていくことを確信した。
「継続することが大切」と宋先生が指摘したとおり、こうしてできた人とのつながりが、新たなつながりを生むことを期待したい。
浅野教授は2日間の発表・討論を総括して、「ジャーナリズムの現状分析と改善の方法を模索するために刺激的な討論が展開された。参加したゼミ学生にとって今後の学生生活を送る上で重要な経験になったと確信する。期末試験直前の多忙な時期に受け入れてくれた早大、朝大のみなさんに心より感謝したい」と述べた。
ゼミ生の感想―東京討論会を終えて
討論会に参加した学生から感想を集めたので、一部抜粋して掲載する。
●自分たちの研究を他大学の方の視点から見てもらうことによって、自分たちでは気づいていなかった問題点や課題などが浮き彫りになり、今後研究を進めていくうえで、非常に役立つ経験となった。ゼミの後輩たちもこのような経験を通して、よりよい研究を行うために役立ててほしい。
●教育GP二日目の朝鮮大学訪問がとても印象深かったです。
朝大生とのグループ討論では、在日朝鮮人の彼や彼女らと実際に話をすることで、初めて知ることができた事実が多々あったと思います。
普段大学で行う座学も大事ですが、やはり実際に現場を訪れ人に会い、自分の五感を使い学ぶことはそれ以上に大きな意味を持つと実感しました。
そのため、今回同志社大学の教育GPという制度を使うことで、彼らと交流できたのはとても貴重な体験になったと思います。
●教育GP二日目の朝鮮大学訪問がとても印象深かったです。
朝大生とのグループ討論では、在日朝鮮人の彼や彼女らと実際に話をすることで、初めて知ることができた事実が多々あったと思います。
普段大学で行う座学も大事ですが、やはり実際に現場を訪れ人に会い、自分の五感を使い学ぶことはそれ以上に大きな意味を持つと実感しました。
そのため、今回同志社大学の教育GPという制度を使うことで、彼らと交流できたのはとても貴重な体験になったと思います。
●朝鮮大学校の学生に、疑問をいくつか聞くと、率直に気持ちや体験したことを話してくれた。これまで同年代の在日の人とあのような話を真剣に話し合ったことはなかったので、初めて聞くことばかりで勉強になった。座学だけでは学べないたくさんのことを知ることができたので、今後の研究活動にも沢山生かせると思う。そして今後もこの縁を大切にしたい。
●とても内容の濃い2日間でした。思わぬ角度からの鋭い質問に、稚拙だったかもしれませんが、懸命に答えることが出来て良かったです。新たな課題や、修正すべき点が多く見つかったので、今後の研究に生かしていこうと思います。朝鮮大学校の学生との繋がりが、東京の他大学との交流をまた生み出す。この繋がりを大切にし、継続していきたいです。
●研究に対して意見をいただき、自分たちの研究になかった視点が得られました。また、朝鮮大学訪問から朝鮮報道の改善に向けてしっかりと勉強していこうと新たに決意しました。
●今回の機会を通じて他大学の学生たちとの交流ができてすごく楽しかったです。 そして、今やっている共同研究に自分らが掴めなかった問題点を指摘していただき、違う視点からの新しい意見が多数聞けてよかったと思います。今後もこのようなチャンスがたくさんあってもっと活発にゼミでの活動をやっていけたらいいなと思いました。
●今回の東京討論会で大学の勉強だけではなくフットワークをきかせることの重要性を感じた。 一聞は一見にしかず!!!
(以上)