創造教育 活動報告

北海道大学教育学部小内透ゼミとの学部生研究交流会報告

◊札幌へ

 2010年10月18日から20日にかけて、鯵坂ゼミの学生18人、TAと鯵坂教授の20名で、北海道大学教育学部の小内ゼミと研究交流会を行なうため秋の札幌市を訪れました。
 18日には、神戸空港より新千歳空港到着後、港町の小樽へ直行した。小樽駅から海に向かうゆるやかな坂を下り、運河を挟んだ対岸から倉庫街を見学した。運河に沿って歩きながら、鯵坂先生より古いレンガ倉庫がならぶ運河の保存運動や小樽市の組み、「まちづくり」の歴史について説明を聞いた。その後、倉庫を再生したお店で夕食をとり、札幌へ戻り北大の近くのホテルに宿泊しました。

◊北大でのゼミ交流会

 19日の朝は札幌市内にある赤レンガ作りの旧北海道庁の北海道開発の歴史資料館を見学しました。この建物も明治初期の建築で、規模は違うが今出川キャンパスのハリス理化学館とよく似た雰囲気の建物でした。中には、北海道開拓の歴史や千島・樺太などの領土問題や、戦争の記録が紹介されており、新島襄が函館から海外に出奔したことも説明されていました。

 その後、歩いて北海道大学を訪問しました。北大は1885(明治8)年に創設された「開拓史札幌学校」(翌年に札幌農学校と改称)を前身としています。この創設年は、奇しくも同志社英学校の創立と同じ年です。北海道大学の正門は、近代都市として計画的に作られた札幌市の中心にある札幌駅から徒歩6分ほどの便利な所にあります。このことは明治初期から続く北海道開発におけるこの大学の位置やこの大学への期待を示していると思います。そこから国立大学随一の広さを誇るキャンパスが広がっています。10月中旬の紅葉が始まった木漏れ日があふれるキャンパスに魅せられながら、クラーク博士(注1)の肖像まえで皆で記念写真を撮りました。そのあとで同大学の総合博物館を見学しました。1大学の持つ博物館としては非常に充実しており、北海道大学で行なわれているあらゆる研究の説明のほかに、先日ノーベル化学賞を受賞された鈴木教授に関するブース、北海道ならではの有珠山噴火に関する資料や、古生物、アイヌなどの先住民に関する人類学的資料など、多岐に渡る展示は非常に興味深いものでした。また、有名なポプラ並木も見学、北大の生協食堂やカフェ・レストランに分かれて昼食をとりました。
 その後、教育学部で小内ゼミの学生と研究交流会を行ないました。同志社大学鯵坂ゼミからは20人が、小内ゼミからは院生を含めて15人が参加し、それぞれ3人ずつが以下のような卒業論文のテーマについて中間報告を行いました。

◊研究報告

1.北海道大学 伊藤麻貴 『学校統廃合による子どもの意識の変化と生徒指導の課題』

 小規模校への関心から学校統廃合に関する研究を始めたが、学校統廃合に関する先行研究ではその要因や流れが主流であり、子どもの視点での研究がなされていないという。そのことから、発表者は学校統廃合の是非を研究するのではなく、子どもの立場に立って学校統廃合を研究することとする。友人関係や生活実態、価値観、自己意識の4点の変化に着目して調べていくということでした。
 財政破たんで有名な夕張市が学校統廃合に関して象徴的ではないかと考え、調査対象を夕張市と定めた。発表者は、学校統廃合による不安と期待が意識の変化をもたらし、自己成長につながるという仮説を立てる。そこで、学校や教育委員会は学校統廃合における子どもたちの不安や期待、意識の変化を自己成長へとつなげるためにどう手助けできるのかを探るために学校や教育委員会の方へのインタビューを行った。今後は、学校統廃合が子どもたちに与えた影響等について、生徒への調査から明らかにするということであった。その後、約10分の質疑応答では「統廃合される前の小規模校ではデメリットだけでなくどんなメリットがあるのか」という質問が出され、「教員同士の理解がしやすい」「一人一人の個性に応じた指導ができる」などといった小規模校ならではのメリットが挙げられました。

2.北海道大学 小林里菜 『国際協力活動から学生は何を学ぶのか』

 次の発表は、自らが所属する国際協力学生団体「結~yui」に注目し、その中で学生が「国際協力」についてどのような認識を持っているのかを調査していくという内容であった。この団体は2008年1月に北海道大学の学生を中心に設立され、『世界の人々【You】と自分【I】の関係を築く』ことを理念としている。主な活動としては、国際関係に関する勉強会や、フェアトレードフェア、スタディーツアー、チャリティーイベントの実施等である。発表者は団体立ち上げ当初から活動に参加しており、昨年秋まで中心メンバーとして活動していた。
 国際協力に関する先行研究では、「国際協力の全体像をつかむことは、ますます難しくなっている。」、「国際協力についての確立した定義は必ずしも見当たらない」とされていることから、発表者には「国際協力活動を行う学生は『国際協力』をどのように認識しているのか。また、それはどう形成されるのか」という疑問が生まれる。さらに先行研究では、「長引く不況の中で、日本人は…すっかり内向きになってしまった。」、「国際協力は人気がなくなってきている」とされていることから、発表者には、「『結~yui』は『外向き』な学生の集まり?それとも活動を通して『内向き』が改善される?」という疑問が生まれる。そのようなプロセスを経て、卒業論文のテーマを「国際協力活動から、学生は何を学ぶのか」に決定する。現在は、既に終えている21名へのインタビューの分析をしている段階ということであった。報告後約10分間の質疑応答では、小林さんの「結」における活動内容に興味が集まり、具体的にどのような活動を行ない、どのように貢献してきたのかについて質問がありました。

3.北海道大学 吉藤健太 『大学生の会社選択のプロセスに関する一考察』

 3人目のテーマは近年の就職活動の現状を捉え、就職活動の際に学生がどのような思考のプロセスを経て、会社選択をおこなったのかを明らかにするという内容であった。景気の悪化による就職難や就職活動の早期化・長期化・煩雑化・不透明化等、就職活動の現状は厳しい。また、新規大卒就職者でも3割以上の人が就職3年以内に離職しているという現状がある。発表者は「就職3年以内に離職する」ことの原因が、学生時代の就職活動にあるのではないかと考え、学生がどのようなことを考え会社選択を行ったのかを明らかにするため、インタビュー調査を行った。
 インタビューの対象者は、就職活動を行った北海道大学の学生で、文系の学生である。理系の学生を扱わない理由としては、就職活動のプロセスが文系と異なること、専門分野と業界・職種とが対応していることが挙げられる。インタビューでは、就職活動前後を通して会社選択の条件、キャリアビジョン、将来設計等がどのように形成され、変化していくのかを調査。調査を通してわかってきたことは、現段階では、「応募先を選ぶ際の重要視する条件はあるが、その条件を満たしているかどうかを十分に確かめることなく、会社選択が行われている」「やりたい仕事が抽象的」「『キャリアビジョン』、『将来設計』を具体的に描いても無駄」といって学生はキャリアビジョンや将来設計にあきらめを持っている、という調査報告であった。こういった「あきらめ」がどのように学生の会社選択を変えているのかという点を、インタビュー分析から明らかにするのが、今後の課題とされました。

4.同志社大学 西美奈代 『統廃合による小学校の跡地活用と地域振興―京都市中心部を事例として』

 西さんは京都市中心部にある小学校の跡地活用が地域の発展や維持にどう結びついているのかを、実際に小学校跡地を活用した京都国際マンガミュージアムや京都芸術センターなどの写真を使って説明していた。今回説明された京都マンガミュージアムや京都芸術センターといったものは成功事例と考えられ、もし跡地活用で失敗に終わった事例があればそちらの説明にも興味がわいた。また、小学校跡地を特別養護老人施設に活用している場所もあり、今後そういった高齢化のニーズに応えた施設が増えて行くのではないかと感じました。

5.同志社大学 中條結 『新規移入者による京町家再生利用について―西陣地区を対象に』

 中條さんは近年の町家ブームに注目し、京町家の衰退から再生の過程を辿りながら実際に町家を利用して事業をおこなっている方へのインタビューを行い、京町家再生利用への思いや取り組みについて、をテーマとしていた。すでに行なったインタビューに関しても紹介されていたが、今回紹介されていたインタビュー対象者は京都市出身の50代、60代の方のみであったため、京都市以外の方、また20代や30代の比較的若い方など、インタビュー対象者を広げるなど、よりインタビューをこなすことが今後の課題とされました。

6.同志社大学 中西希和 『岸和田だんじり祭りと地域―9月祭礼と10月祭礼を比較して』

 中西さんは岸和田市内にある2つの地域のだんじり祭りの相違点や共通点を、フィールドワークを通じて明らかにしていくという研究テーマであった。地区は違うが、同じ市でだんじり祭りが9月と10月に別々におこなわれること、2つのだんじり祭りの意義や目的の違いがはっきりしていた事が興味深かった。実際に多くの人はだんじり祭りを見た事は無かったが、報告の中でだんじり祭りのDVDを再生されていたため、リアルにだんじり祭りを感じる事が出来ました。

◊コメントと感想

 発表後、小内教授からコメントがあったように、両ゼミの発表にはいくつかの大きな違いがありました。一つ目は、発表形態です。北海道大学小内ゼミの学生の発表はPower Pointを使用し、ハンドアウトもPower Pointのスライドをプリントしたものでした。発表には終始Power Pointのスライドが使用され、文字だけでなく写真を多用していたため、ハンドアウトを見なくても発表の内容をつかむことができ、わかりやすいものとなっていました。しかし、発表中にメモを取ったものの、発表後にレジュメを見た場合には必要最低限の情報しか得ることができないのではないかとも感じました。
 これに対して同志社大学鰺坂ゼミの学生の発表は、Wordで作成したレジュメを主な資料とし、Power Pointは補助的に使用し、写真などを写すツールとして使用していた。発表が行なわれている間は、パワーポイントを用いた北海道大学の方法に比べ理解しにくい部分があったかもしれません。発表者が口頭で説明している部分がレジュメのどの部分当たるのかを追いながら、レジュメの内容を深く読むことは難しいのではないかと感じました。しかし、レジュメに研究について詳しい説明が記載されており、多くの情報を得ることができること、また後々に見なおすことで理解を深めることができること、などの利点はあります。

 二つ目の相違点は、発表内容の構成です。小内ゼミ生の発表は、テーマ設定の動機や問題意識、研究の目的などを明確に表し、それに多くの時間を割いていました。テーマ設定の背景を紹介し、それから問題意識と論点を明示し、現在の研究の進行状況を確認した後、今後の研究の道筋を発表する、といった具合です。それに対して鰺坂ゼミの学生は、先行研究を踏まえ、テーマに関する事柄について重点を置き具体的な調査内容を発表した。テーマ設定の背景や動機・問題点などにはほとんど触れられていませんでした。
 発表形態と内容に大きな違いがあるため、簡単には比べにくのですが、「発表の仕方」に関していえば、小内ゼミ生のほうが優れていたと思います。なぜなら、小内ゼミ生の発表は予備知識なしでも理解できる、大変わかりやすいものでした。「教育」、「国際協力と学生」、「就職活動」など、なじみのあるテーマが多かったこともありますがPower Pointを有効に使い、初めて聞く内容であるにも関わらず容易に理解することができました。

鰺坂ゼミ生の研究テーマは、特定の地域に限定したもので、初めて聞く人には少々わかりづらいテーマでした。それに加え、鯵坂ゼミ生は調査した内容を網羅的に示し、図表なども少なかったために、そのマニアックな内容に小内ゼミの方々は少し困惑していたようでした。専門的な語句など20分間では説明が難しいほどの情報を盛り込んでいたため、発表自体は少々分かりづらかったように感じました。

 小内ゼミに関して批判的な視点で語るならば、発表内容がテーマの設定までにとどまり、研究の具体的な内容が展開されていないように思いました。魅力的で多くの人が関心のあるテーマであるだけに、もう少し具体的な調査内容を聞きたかったです。
研究報告会の後には、北大の近くの「根室食堂」という北海道らしいお店で、合同懇親会を開催しました。京都では食べられない美味な食材ばかりで、満腹になりました。

◊札幌市の見学

 最終日には、札幌市の都市形成や北海道開拓についての建物や施設の見学を行った。東西南北に広がっていく、札幌の計画的な街路計画などに感心した。

◊GPのお陰で貴重な経験が

 今回の研究発表会では、ゼミにおけるお互いの研究内容を知るだけでなく、研究のアプローチの方向、研究発表において重視している内容、発表スタイルに違いがあることを知ることができました。当然のことなのかもしれませんが、今回のような機会がなければ同志社大学内だけの授業においては、このようなことはほとんど感じられません。まして札幌の大学と京都の大学ということで、貴重な経験ができたと感じました。
 多くの学生にとって北海道を訪れるのは初めてのことでしたが、北海道の美しい自然にも触れ、また北海道大学小内ゼミの皆さんには、学び多い交流の時間をいただき、とても有意義に過ごさせていただきました。厚く御礼も仕上げます。最後になりましたが、GP資金のお陰で得難い研修旅行の機会をいただき、ありがとうございました。

(M.A.記)

(注1)新島襄は、アメリカのアーモスト大学在学中にこのクラーク博士の「化学」の授業を受けています。クラーク博士は新島襄の紹介もあって、札幌農学校の教頭に就任しています。

北海道大学教育学部 北海道大学教育学部

北海道大学教育学部 北海道庁の旧本庁舎

北海道大学教育学部小内ゼミとの交流 北海道大学校内のクラーク博士像

(旧)北海道開拓使本庁舎 小樽の運河

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