2011年10月5日 渡辺武達
◊はじめに
2011年9月20日(火)から23日(金)の3泊4日で、メディア学科渡辺武達ゼミ恒例の沖縄研修旅行を行った。
例年、この企画は秋学期直前に実行され、もう10年以上になる。その目的は①沖縄大学の緒方修先生ゼミとの研究発表と相互批判による交流、②琉球新報社と同社新聞博物館を訪ね、最近の沖縄事情の講義を受け、同時に現在の新聞事情について学習すること、③在沖縄米軍基地問題についての理解を深め、地元の事情を直接体験的に知ること、などである。
今年もそれらの目的を組み込んだスケジュール(詳細は後述)を立てて実行し、予定通りの学習効果/成果をあげることができた。
以下はその概略である。
◊ 1日目(20日、火):
沖縄に着いたのは13:00であったが、予約していたレンタカーを受取り、空港を出るまでに時間がかかった。そのため、この日は「ひめゆりの塔」(糸満市伊原671-1 ひめゆり平和祈念資料館)の参観のみであった。
学生たちは映画「あゝひめゆりの塔」(日活映画、吉永小百合主演)や本で、第二次大戦末期、悲劇的な最期をとげた県立第一高女・沖縄師範女子部の「ひめゆり部隊」についての事前学習をしていたが、自分たちよりも年下の女学生が普通に勉強することを許されず、看護要員として戦場の前線に送り込まれた生々しい資料の数々を見て、沖縄戦の実体の一端を知り、涙するものもいた。
その後、時間の関係で、定食屋(高良食堂)で沖縄料理の夕食をとり、那覇市内のホテル(沖縄サンプラザホテル、那覇市安里138)へチェックイン、翌日の沖縄大学生との研究発表交流の準備を行った。
◊2日目(21日、水):
08:30にホテル発。午前中に、「旧海軍司令部壕」(豊見城市豊見城236)と首里城(那覇市首里金城町1-2)の見学を行った。
「旧海軍司令部豪」では現在のアフガニスタンなどで米軍の空爆に抵抗するタリバーンの潜伏地がこうなっているのかとも思わせる岩をくり抜いた壕に実際に入るという貴重な経験をすることができた。壕の中の空気は重く、地下水がしみだすために、ところどころぬかるんでいた。もちろん、観光用に整備されており危険はないが、当時は疲労した兵士であふれかえっていたに違いなく、状況がいかに壮絶なものであったのかと考えさせられたとは女子学生の感想である。迷路のような地下通路が沖縄住民の徴用と過酷な労働によって作られたことに驚き、また当時の壕内では米軍上陸を前に兵士や幹部幕僚が手榴弾で自決した時の破片跡や遺体が散らばっていた場所など、現在でも沖縄戦の悲惨さや酷さが残っていた。
首里城は沖縄が本土に併合されるまでの琉球のシンボルであり、その王城であった。明治政府によるその併合の歴史は大城立裕『小説 琉球処分』(上・下、文庫)講談社、に詳しいが、独立王国時代の華麗さと独得の沖縄文化が残り、事実、NHKの大河ドラマなど問題にならない実物の迫力があった。
昼食をこの首里城の休憩所でとり、13:30から、沖縄大学の緒方ゼミ生(7名)と合同で琉球新報社を訪問した。同社玻名城泰山取締役編集局長の出迎えを受け、岡田新聞博物館長の案内で、編集局の見学の後、新聞作りの工程を現場で詳しく説明してもらい、さらに米軍問題を浮き彫りにする写真をたくさん見ることができた。特に、住民を敵と仮定して演習を行っている米兵が写されていた写真には一同恐怖さえ感じた。岡田館長のことば「基地問題や沖縄戦のことが沖縄の新聞に載らない日はない。普天間基地移設に関しても、関西にいる人にとってはどこか他人事のような空気があるように思います。移設先の辺野古沿岸は、絶滅危惧種、ジュゴンの餌場になっている。その事実を知っている人は日本に何人いるのでしょうか。メディアはこうした事実をもっと報道すべきです」は忘れられないと学生の一人は感想文に記している。
15:30から18:30の3時間にわたり、沖縄大学の教室をお借りして、双方のゼミ研究交流発表を行った。渡辺ゼミからは、3つの発表(①「トヨタリコール問題、ソニー情報流出問題における日米報道比較」(高橋姫香)、②「なぜNHKあさイチが今、好調であるか」(岸田雪)③「日本の原子力とメディア~その問題点とこれからの報道に求められること」(井上真一)を行った。沖縄大学側からはゼミの課題として制作した4つ作品(①「わたくし宮古島まもるです」(玉寄彩乃・真喜志さやか、②「140年ぶり 烽火(のろし)再現は?」(平昂大、琉球放送放映の一部)、③「宮古島マモル君」(真喜志さやか、玉寄彩乃、宮古テレビで一部放映)、④「名蔵アンパル(網張=湿原)」(高志保宏幸、照屋香、石垣ケーブルテレビで放映)が上映され、相互にコメント、意見交換をした。同志社大学側がメディアの理論的研究が主であったのに対し、緒形ゼミはメディア制作をベースに活動を行っており、2つのゼミの違う面が発表を通して理解でき、有益な学習会となった。
続いて19:00より、那覇市内の居酒屋で懇親会を行い、交流を継続し、研究上の情報交換をしながら友情を深め、確認した。
◊ 3日目(22日、木):
08:30にホテルを出発、道の駅「嘉手納」へ向かい、その5階展望台からアジア最大の米軍基地嘉手納を観察した。
低空で演習を繰り返す飛行機の爆音もひどいものであったが、それ以上に、視界いっぱいに広がる基地の規模と緑の芝生、瀟洒な住宅に圧倒され、所々に見える弾薬庫・戦闘機格納庫に恐怖を覚えた。同時に基地が平坦な地にあるのに、住民の住居が曲がりくねった坂道に多いことに事実上の米軍占領を感じ、学生たちはその矛盾を深く心に刻んだ。
帰宅後に提出された学生のレポートによれば、普段の自分たちの生活とはまるでかけ離れている光景、本土のメディアでときどきニュースとなる普天間基地などの問題も実際のほんの一部でしかないこと、さらには本土で喧伝される美しい海と珊瑚礁、観光地沖縄の別の顔を確認し、ショックを受けたということであった。
10:00、そこから2班(①美ら海水族館など北部の施設、史跡を回るグループ②中部の戦跡をめぐるグループ)に分かれ、それぞれの立てた計画に従って体験的実習を行った。
そうして班別に沖縄本島を動いた後、19:00、ホテル(しまんちゅクラブ、国頭郡恩納村名嘉真2288-162)へチェエクインして、バーベキューの夕食後、意見交換、報告会を行った。そこでもまた、すべての参加者が至る所で米軍基地を目の当たりにし、住民の一般居住地が米軍と自衛隊の基地に取り囲まれているかのような状況に言葉を失い、琉球新報社での「沖縄住民の声を素直に伝えるとやはりこれ以上の米軍基地の増設はみとめられないという紙面になる」との岡田博物館長のことばをかみしめていた。
◊ 4日目(23日、金):
09:00ホテル発、那覇空港へ向かう。まずレンタカーを返し、空港で買い物をし、出発ゲートへ。
空港荷物検査場では「森林の中で拾った手榴弾は持ち込みできません」という張り紙を見つけ、今なお、沖縄は観光客が森林で容易に手榴弾を手にすることができるという環境であることを再認識した。
11:20那覇空港発、13:10無事関西空港着、解散。
◊ 後記:
参加学生全員からレポートを提出させたが、すべてのレポートが先述したゼミ研修の目的をよく理解し、かつスケジュールを滞りなくこなし実行できたことについて、充実した体験とともに満足感と学習効果についての感謝が記されていた。同時に、普段本土のメディアに接しているだけでは知り得ない、米軍基地との接触について、現地の生の声をジャーナリスト、沖縄大学生や住民の方々から聞き、おなじ日本人としてもっとまじめにそうした問題について考えていかなければならないと感じたようである。
とくに、実際の戦闘機の爆音を生で聞いてはじめて、沖縄の人びとの米軍基地問題に対する意識の高さ、敏感さが理解できたようである。
さらには、メディア学科の学生として、メディアが伝えるべきことは何なのか、自分たちが日頃勉強していることを、この沖縄研修を通してさらに発展させなければないとの感想が寄せられたことは引率者としてもうれしいことであった。
最後に、全般にわたり沖縄大学緒方修教授とゼミ生の皆さんの協力でこの研修ができたこと、ならびに同志社大学からの経済的援助が得られたことに感謝しつつ、その期待に応えられる研修内容になったことを報告しておく。学生たちにも今度の沖縄での経験を忘れず、今後とも継続して努力していってくれることを望みたい。
なお、ゼミ研修の幹事は3回生、藤木恵里、篠原圭吾、高田裕香にお願いした。参加者は3回生15名、1回生1名、引率のゼミ担当者である渡辺武達を合わせ、全17名であった。
以下、簡単なスケジュール表と関連写真を添付する。
1日目(9/20、火) | |
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09:45 | 伊丹空港集合 |
10:55 | 伊丹空港発 |
13:00 | 那覇空港着 |
13:00 | 那覇空港着 各班に分かれ、レンタカーを借り、ひめゆり平和祈念資料館を見学、那覇市内で夕食 |
20:30 | ホテル(沖縄サンプラザホテル、那覇市安里138)へチェックイン |
21:00 | 入浴 |
22:00 | 研究発表の準備~就寝 |
2日目(9/21、水) | |
08:30 | 朝食後、旧海軍司令壕見学、首里城見学 研究発表準備と昼食 |
13:30 | 沖縄大学緒方ゼミとともに琉球新報訪問。新聞博物館などを見学 |
15:30~16:30 | 沖縄大学で、研究発表と議論 |
19:00 | 懇親会 終わり次第、前夜と同じ那覇市内のホテルへ戻る。入浴後、就寝。 |
3日目(9/22、木) | |
09:00 | ホテルをチェックアウトし、2つのグループに分かれ、沖縄県内を参観。 |
19:00 | 恩納村のホテル(しまんちゅクラブ、国頭郡恩納村名嘉真2288-162)にチェックイン 夕食はバーベキューを楽しむ。 |
21:00 | 反省会、意見交換会 |
4日目(9/23、金) | |
09:00 | 朝食後ホテル発、那覇空港へ |
11:20 | 那覇空港発 |
13:10 | 関空着、研修終了、解散 |
以下は関連写真
沖縄大学におけるゼミ研究発表交流(2011年9月21日)
真剣に学ぶ両大学のゼミ生たち、左手前は沖縄大学緒方修教授(2011年9月21日)
沖縄大学生との懇親会(2011年9月21日)
琉球新報本社前にて(2011年9月21日)
琉球新報新聞博物館(2011年9月21日)
琉球新報新聞博物館岡田館長からの説明(2011年9月21日)
旧海軍司令部壕前にて(2011年9月21日)
旧海軍司令部壕内部(2011年9月21日)
首里城正門前にて(2011年9月21日)
嘉手納基地を背景に(2011年9月22日)
沖縄美ら海水族館前にて(2011年9月22日)
以上