創造教育 活動報告

2008年度 社会学科 鵜飼ゼミ 卒業論文 相互批評集

卒業論文(卒業研究)には大学教育、さらにいえば 16年間の学校教育の集大成という大きな意義があると思うのですが、基本的には学生と教員の間のやりとりの中にとどまってしまい、せっかく面白い知見やアイデアがたくさんあるのに、もったいないことと常々感じていました。

「教育GP」の実施を機に、学生自ら研究して論文を書くだけでなく、お互いの論文を読み、批評し合うことで、自分の視野を広げ、文章表現を磨けないかと、相互批評を書く試みを始めました。本来はもっと早くから、2~3度繰り返せばよかったと反省していますが、今年度はまず一歩を踏み出したところです。以下、ゼミの卒論集から(個人名をイニシャルに変えて)本人による要約、ゼミ生2名による批評、教員による(ひと言)講評を抜粋して掲載します。

卒論の目標

まずは何かを論ずるアイデアが必要です。素朴でもいい、借りものではない自分の問題意識。

つぎに、アイデアを表現する論文という形式に則ること。論文とは、随筆にあらず、感想文にあらず、記録にあらず。1)まず、自分のアイデア、そう考えた経緯をわかりやすく説明する。2)それに類することを他の研究者や論者はどのように論じているのか。それに対して、あなたは賛成か反対か。客観的に丹念に論点を整理する。3)自分のオリジナルな調査や考証を展開すること。既に出された論点に、自分が付け加える論点や反対する論点は何かを示す。論文にとって最も重要なところです。4)最後に自分の論文をふりかえり、オリジナリティと客観性について再検討する。他の論者に読まれても、失礼な内容になっていないか、テーマに対して充分に誠実であるかどうかを確認する。

その他、表紙、目次、章節の構成、参考文献・資料の一覧表記、本文の内容を補う注などの論文に必要な要素が揃っているかどうか。もちろん、誤字・脱字、ワープロの誤変換がないか。

以上の「論文」という形式を守り、自分のアイデアや問題意識を表現することが、大学教育の集大成としての卒業論文の目的です。

タイトル一覧

著者 タイトル
GT 現代宗教における若年層の信仰と宗教活動 ― 2つの新宗教団体への調査から ―
HA 「就活」が学生に与える影響 ― 就職活動のメリットとデメリット ―
HY 犯罪とどう向き合うか ― 今日の社会を取り巻く状況を通して ―
IMY 日米マンガ比較から見る日本マンガ― 日本マンガが何故これほど海外で注目されるようになったのか ―
ISY 物語としての高校野球 ― 球児・地域性・メディアを組み合わせる観衆 ―
IT 住民意識を高めるまちづくりの様子 
KIK パチスロのタイアップ化現象について ― 五号機時代の活路 ―
KY 死とはどういうものか  ― 現代社会の死の捉え方 ―
KOK 「個客」満足の時代 ― スターバックスコーヒーでのアルバイトを通して ―
MM 異性装漫画における性別越境の可能性 ― 『少女少年』が作り出す新しい時代 ―
NT 「通じる」コミュニケーション ―「沈黙」に耳を澄まし、自分の言葉を紡ぐこと―
NY 安心できない社会・信頼できない人々 ―個人情報保護法からみる日本社会の信頼―
NS 法律の中から見る児童虐待 ―法律の変遷と児童虐待の変化―
OT 地域に根ざすクラブを求めて ― Jリーグの評価を通して考える ―
ST 化粧と社会心理学 ― 「見せる美」と「隠す美」 ―
TY ロハスの環境効果とは
YM 桐野夏生の小説におけるリアリティ ― 小さな実感の重要性 ―
MH クレーマーの位置づけと増加の背景について ― NOと言えない企業側 ―
SH これからの客室乗務員 ― 女性を魅了する CAの秘密と過去の栄光 ―

全体への講評

卒論というと、ひとりひとりが文献や資料を読み、あるいはフィールドワークやアンケートをして、論文をまとめていくものと考えがちですが、もちろんそれも大事ですが、私が重視しているのは、ゼミの中でみんなに自分の論文のアイデアを発表すること、あるいは仲間からの発表に対するコメントを聴くこと、そして、それを受けて、自分の論文をより良いものにするため努力することです。そんなセンスを互いに磨いてほしいというのが私の願いでした。

就職活動など、それぞれ人生の転機といってもよい大変な時期に、また世界と社会の全体も激動の時代に、こうやって 19名が一人も落ちこぼれることなく、毎週のゼミに集い、私の願いを理解してくれ、卒論を書き上げたことは、そのことじたいに大きな意味があると思います。

ゼミでは、全員の卒論を収録した卒論集をつくりました。なんだか電話帳(あまり見かけなくなったけど)みたいな分厚さになりましたが、できればずっとどこかに置いて、 15年後、30年後に読み返してくれたらうれしいです。(UK)

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